アルベルト・ゼッダ先生

日生劇場の《ランスヘの旅》が明後日初日を迎えます。指揮はロッシーニのエキスパート、アルベルト・ゼッダ先生。音楽家でもない私が”先生”を付けてお呼びするのはオペラ道の師匠、そして人生の師匠としてゼッダ先生に私淑しているからです。

今年の4月18日に大阪フェスティバルホールであった《ランスヘの旅》公演でコーディネートと通訳の仕事をさせて頂き、ゼッダ先生のお仕事ぶりを近くから見る機会が得られたのは、私の人生にとって大きな糧となる素晴らしい経験でした。

ゼッダ先生はとにかく音楽に対する情熱、謙虚さ、そして自然な態度が群を抜いています。別にスーパーマンではなく普通の87歳のおじいちゃま。スペイン人の素敵な奥様がいらっしゃり、プライヴェートでは可愛いお孫さんの話も飛び出すし、お年相応にお疲れの時もあるごく普通の人間です。でも音楽に対する情熱がとにかく並外れている。長年ロッシーニの音楽にどっぷり浸っていらっしゃるはずなのに、《ランスヘの旅》というオペラを指揮するのも、「このオペラは素晴らしい。本当に飽きない!」と少年のように目をキラキラさせて何度もおっしゃいます。そして好奇心が旺盛で、色々な事を良く見ていらっしゃる。誰よりもご自分に厳しいし、歌手達にも厳しい。リハーサル中はもうそれこそ「こんなこと訳していいんですか!?」という厳しいお言葉がどんどん出て来ていました。でも歌手の皆さんはゼッダ先生の厳しさが、人格に対してではなく音楽に対してだということをすぐに解って下さって本当に真剣に応えていらっしゃいました。そして、本番当日。私は舞台裏におりましたが、モニター画面を見ながら音楽を聴いていると、あんなに厳しかったゼッダ先生が今度は歌手やオーケストラの皆さんの最高のものを引き出し、そしてロッシーニのあまりにも楽しい音楽を観客と分け合うために全身全霊で指揮をしていらっしゃるではないですか。世の中にこんな人もいるんだ、と本当に感動しました。

明後日から3回の公演、今度は客席から聴く事が出来るのが嬉しくて仕方がありません。ゼッダ先生、そして共演者の皆さん(今度は東京フィルと藤原歌劇団の皆さんです)、客席から応援しております!!!