ダニエラ・デッシー

私が朝起きて一番最初にすること、それはFacebookを見る事です(毎朝必ずではありませんが…)。今日の朝一番にFacebookを開くと、つまり時間的にはちょうどイタリアの土曜日の夜でしたが、そこで多くの人がシェアしていたのがソプラノ歌手ダニエラ・デッシー急逝のニュースでした。

声、歌唱技術、演技、容姿、そのすべてに優れ、イタリア・オペラ界を代表する歌手であったデッシーはまだ59歳。現役で活躍中でしたが、ご自身のFacebookで「体調を崩したのでこの夏の仕事をすべてキャンセルせざるを得なくなりました。」と発表したのが7月27日。つい先日の事でした。

来日も多く、私の知っている限りオペラだけでも、

1988年 スカラ座来日公演「トゥーランドット」リュー役1990年
1993年 サントリーホール、ホールオペラ「ラ・ボエーム」ミミ役
1994年 サントリーホール、ホールオペラ「椿姫」ヴィオレッタ役
1998年 ボローニャ歌劇場来日公演「ドン・カルロ」エリザベッタ役
2001年 プッチーニ・フェスティヴァル来日公演「蝶々夫人」蝶々さん役
2004年 プッチーニ・フェスティヴァル来日公演「蝶々夫人」蝶々さん役
2006年 ボローニャ歌劇場来日公演「イル・トロヴァトーレ」レオノーラ役
同年 ローマ歌劇場来日公演「トスカ」トスカ役
2010年 アレーナ・ディ・ヴェローナ来日公演「アイーダ」アイーダ役

があります。

私がイタリアにいるあいだに観たデッシーの舞台はかなりたくさんあり、いまここで全てを書き記す事は出来ませんが、スカラ座でパヴァロッティと共演した「ドン・カルロ」のエリザベッタ、フィレンツェで観た「蝶々夫人」、ボローニャで観た「ノルマ」などは記憶に深く残った名舞台でしたし、ジョルダーノ「愚弄晩餐会 La Cena delle Beffe」や、カレーラスと共演したヴォルフ=フェラーリの「スライ」(これはスイスでした)などにおいても圧倒的な存在感と美しさでした。

デッシーはジェノヴァに生まれ、パルマとシエナで声楽を学び、地元ジェノヴァのオペラ・ジョコーザ劇場でペルゴレージ「奥様女中」を歌ってデビューしました。ミラノ・スカラ座、メトロポリタン歌劇場をはじめとする世界の一流舞台で数多く歌っており、アッバード、シャイー、ガッティ、ジェルメッティ、ムーティ、シノーポリなどの指揮者と共演しています。ビロードのような美声を持ち、若い頃はペルゴレージやロッシーニ、モーツァルトなどを歌い、ベルカントを経てヴェルディ、プッチーニの重要な主役を数多く歌いました。近年は声の円熟にともないヴェリズモのレパートリーに移行していました。デッシーの卓越した音楽性と歌唱テクニックは、数ある録音を聴き、録画を観ればすぐに分かります。情熱的な歌姫で、2000年からはテノール歌手のファビオ・アルミリアート氏が公私にわたるパートナーでした。

ボローニャ歌劇場との二度の来日、そして2010年のヴェローナとの来日時に私が通訳としての仕事をさせていただいた時には、あまり近くからではありませんが、彼女の誰にでも公平な礼儀正しさ、そしてプロフェッショナルとしての仕事ぶりを間近で見る事が出来ました。イタリア・オペラ界が失った財産はとても大きなものです。歌姫デッシーのご冥福を祈り、残されたご家族の苦しみが少しでも癒される日が来ることを願いたいと思います。